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あの子

 

「〇〇お誕生日おめでとうー!」

 

 朝、いつも通り登校すると教室の一角から声が聞こえる。一人から始まり、声の輪が大きくなっていく。その声に囲まれたあの子は少し照れくさそうに、でも嬉しそうに笑って「ありがとう」と応える。

 

中心にいる彼女を、私は遠巻きに見つめていた。羨ましかった。あそこにいてみたかったと思った。でも叶わないことを知っていた。だからそう思うのをすぐにやめた。

 

 

 

世間的には全力で年度末。学生的には春休み真っ只中。そんな春の日に私は生まれた。

 

授業なんてない。祝いの言葉に囲まれる"彼女"には私はなれない。数少ない仲のいい友達が祝ってくれたのは嬉しかったけど、やっぱり私は"あの子"が羨ましかった。

 

 

それでも、誕生日を嫌いにならずに済んだのは、春だったからだと思う。

 

桜が咲く季節に生まれたこと、誕生日を迎えると桜が咲いていることはとても嬉しいし、この季節で良かったと思える。

 

 

声に囲まれた"あの子"にはなれなかったけれど、桜の花に囲まれて、彩られて、私は歳を重ねてきたのだ。

 

 

もうすぐ桜が咲く。

今年もまた歳を取る。

新しい一年が始まるのだ。