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この夜

彼女は大学のサークルの先輩だった。決して目立つタイプではなく人見知りぎみだったけれど、こちらから話しかければきちんと応えてくれるし、慣れてくるとニコニコと話を聞いてくれる優しい人で、私はとても好きだった。彼女が引退する頃に一度だけ遊びに行ったこともあった。

 

しかし、その直後に彼女と連絡が取れないという話を先輩方から聞き、私も連絡してみたが返事は返ってこなかった。しばらくするとSNSを通して、病気をして地元に帰っているという報告が本人からあった。

 

病気というのは、軽度のうつ病だった。

 

ひどい言い方かもしれないけれど、「あぁなるほど」と思った自分がいた。彼女は優しくて真面目で責任感が強くて、少し自分に自信がない人だったから。

それから、いなくなった彼女のことを話題に出す人はいなかった。まるで初めからいなかったかのように。別にそれは彼女だけに限らない。年に数人はいる他の退部者も同じ。でもわたしは悲しかった。

 

 

それから2年近く経った、今から2ヵ月前ほどのこと。

何気なくLINEの友達欄を見ていたら、件の彼女のアカウントが目に付いた。久しぶりに見た名前。その横にあった文字は

 

Tonight - SHE'S

 

LINE MUSICで設定していると出てくる表示だった。去年の秋に出たばかりのシングルの表題曲。つまり設定したのはごく最近だということだ。

嬉しかった。

生きていてくれてるのだということも、同じ音楽を聴いているのだということも。

連絡をしようとは思わなかった。おそらく、もう二度と会うこともない。それでも良かった。

優しい彼女は、優しい唄を聴いて今日もどこかで生きている。それだけで十分だった。

どうか、元気で。

 

 

 

今日のBGMは

プルーストの花束』SHE'S